―灯火の座―
―凍える村コートニー―
―ヨザミ書簡院―
―イザムギの屋敷―
―灯火の座―
白色の石で作られた小さな建物。その真中に輝く炎は、燃えるというよりは灯ると表現したくある程のささやかな物だ。しかしこの炎が持つ特殊な力――冷気をある程度遮る『圏』を作り出す――は村の宝であり、そして決して失ってはならぬものだ。
常駐軍により持ち込まれたこの印章機構は神聖なものとして奉られる一方、その炎は村の人々達から親しまれてもおり、炎を守る建物は自然と村の人々が集まる、一種の社交場に近い場所となっていた。
この場所なら、村についての情報を仕入れることも容易いかもしれない。
・
灯火の座直ぐ傍に固まって座っていた老婆達から、村外れにある書簡院の管理人だという娘、ヨザミについての噂話を聞く。元々は村に住んでいた本好きな普通の娘であったらしいのだが、あの館で働き出してから、単なる本好きという事場では済まない蒐集家の癖が出てきたという。
得意な趣味の蒐集家同士、気が合うのだろうか?
End of Scene...
―凍える村コートニー―
村の外れにあるその館は、辺境の小村であるコートニーには不釣合いなほどの巨大な建物だった。
暫し茫然とその建物を眺め、次いで隣に立つノエルに尋ねる。この建物は一体何、と。
問われたノエルは無言で建物の限界口らしき場所を指差した。鉄製らしき硬質の色を持つ扉、その隣にかけられた大きな表札には、古びた字体で「書簡院」と書かれていた。
(……書簡院?)
聞いたことも無い言葉に、ぷるみえーるははてと首を傾げる。その仕草を見たノエルが、己の行動を補足するために言葉を足した。
「わたくしも良く理解できませんが、語感から察するに恐らくは図書館かそれに類するものなのではないかと、わたしは推測しますが」
こんな辺鄙な村にこれほどの大きさの図書館、というのはどうも違和感を覚えるのだが。
その辺りの調査も兼ねて、今度気が向いたときにでもお邪魔してみることにしよう。
End of Scene...
―ヨザミの書簡院―
村外れにある、とある館の玄関口。そこに三つの影がある。ぷるみえーる、ノエル、そして館の住人であるヨザミである。
「む、むむ、それは……」
これと引き換えに、イザムギが言っていた本をこちらに渡してくれないか。
そういってぷるみえーるが見せた古人の書簡を、ヨザミは食い入るように見つめ、言葉では表現しずらい唸り声を上げる。
「ぐ、むむ……その書簡から漂ってくる悲しげな青色のイメージ……確かに古人達が残した想いの詰まった手紙……しかもまた微妙に汚れてるし……」
ヨザミは良く判らない事を呻きながら、面白いポーズをつけて煩悶している。
「何とかしてあげたいけど……ぬ、ううう、でも……ううぅう――ああもう、判りました!! わたし、魂売っちゃいます!」
何やら彼女にしか判らぬ一線を飛び越えてしまったらしい。
最後に意味不明な言葉を叫ぶとヨザミはどたどたと館の奥へと走り、暫くして数冊の古びた本を持って戻ってくる。
「これがイザムギの云ってた本、昔のキヴェンティ達が使っていた古文を研究して纏めた物です。好きなだけもってっちゃって構いませんから、ほら、それ!!」
云って、ヨザミの手が派手に動いて、こちらの手にあった書簡を毟り取る。
(……何でそんなに必死なんだ?)
ぷるみえーるは首を傾げて、呆れ混じりにヨザミから押し付けられた本数種を持ち直すと、取り敢えず横に居たノエルに預ける。その間、半ば奪い取るような形で書簡を手にしたヨザミは、「よし、やるぞー」等と一人意気をあげていた。「ヨザミさん、一つお訪ねして宜しいでしょうか?」
渡された書を自分の背嚢に詰めながら、無表情のままにその様子を眺めていたノエルが、ふんふんと気合を入れているヨザミに話し掛ける。
「? 何でしょう?」
両手に書簡を抱えるようにして振り向いたヨザミに、ノエルは淡々と己の疑問を口にした。
「ヨザミさんはその手紙をこれからどうされるつもりなのでしょうか。この館に保管して、それでお終いなのですか? 先程からのあなたの様子を拝見していると、それだけで終わるようには見えないのですが」
「え? ……ああ、そうでした」
ヨザミは眼を数度瞬かせると、ぽんと己の手を打った。
「貴方達にはこの館のお役目、お話してませんでしたっけ。でもどうしましょうか。貴方達、イザムギのお使いできたのなら直ぐ彼のところに戻らないと駄目なんでしょう?」
どうだろうか。それ程急ぐ旅でもないのは確かだが。
ぷるみえーるが曖昧に答えると、ヨザミは顎に指を当てて「んー」と唸り、
「まぁ、簡単に云っちゃいますと、この書簡院は文に堪った想いに形を与えて、凝り固まって淀んだ部分を叩いて直して綺麗な想念を甦らせて気持ちよく眠っていただく為の場所なんです。あたしはその導き手兼掃除屋さんっていう事」
「……申し訳ありません、わたしには良く理解できないのですが」
横で聞いていたノエルが珍しく眉を顰めてぷるみえーるの方を見上げてくる。説明を求める視線だ。
が、ぷるみえーるも正直いまひとつ意味が判らなかった為、何とも微妙な表情でお互い顔を見合わせるだけの結果となった。
そんなぷるみえーる達を見て、ヨザミは手に持つ書簡を唇に当ててくすくすと笑う。
「判らなくてある意味当然ですよ。私もこちらに初めて働きに来た時に教えていただいたんですが、その時はホント意味さっぱりでしたから」
軽く肩を竦めると、彼女はそのまま館の上階へと続く階段へと歩きながら、書簡を左右にぴらぴらと振って見せた。
「じゃ、あたしは早速これの作業に掛かりますのでこれで。続きはまた別の機会にお話ししますね」
End of Scene...
―イザムギの屋敷―
ポロサの町の外れに建つ古びた屋敷を訪れる。そこに暮すイザムギは、亜獣に関する品を蒐集することを生きがいとする青年だという。
屋敷の呼び鈴を鳴らして暫くの後。
「どちらさまかな。まぁ、誰だろうが構わないんだけど」
言葉と共に、屋敷の扉がゆっくりと開き、一人の男が姿を現す。
細い身体に高い背丈、そして柔和な表情と糸のような両眼。男の外見を構成する要素は、その四つに尽きた。
「イザムギさん、ですね」
ぷるみえーるの隣――いつものようにぷるみえーるに付いてきていたノエルの声に、イザムギは僅かに相好を崩す。
「君達か。さぁ、遠慮は要らない。中に入るといい」
・
「おや、ヨザミ、本当に貸してくれたのか。珍しいな」
ヨザミから借りてきた本を差し出すと、イザムギは心底驚いた顔をして受け取る。
人に頼んでいてそういう態度はどうなのかとぷるみえーるが言えば、
「いや、どうも俺は彼女に嫌われてるらしくてね。前にこっちが蒐集していた書簡関係でダマしたのがいけないんだが」
騙したのか。
「んー、いや、どう言えば良いかな、騙したというか上手く交渉したというか……」
呆れ顔のぷるみえーるに、イザムギは取り繕うように言葉を続ける。
「まぁ、それは良いとして――兎に角ありがとう、これで欠けていた部分が全て読める筈だ。申し訳ないが少しだけ待っていてくれ」
・
半時間という長いとも短いとも言える微妙な間を置いて、イザムギは奥の部屋から応接間へと戻ってきた。
「お待たせ、あの碑石についてだけど、ある程度は判ったよ」
そんな前置きと共に告げるのは、碑石が持つ機能についての話だった。
あの碑石郡には何らかの機能が備わっており、イザムギが集めていた資料から判ったのはそれの操作法のようなものらしい。
操作は簡単なもので、石の配置による起動と停止の二つ。
だが、肝心の碑石の操作を行った場合に一体どのような変化が起きるか、という部分の調べがつかないという。何かの機能を持っているのは確かで、それを動かす若しくは止める方法は判るが、その機能自体が判らないらしい。
「碑石自体は亜人達ではなくて、キヴェンティの氏族が大昔に造った物らしいんだけど……集めた資料から察する処、彼等の間でももうあの碑石についての伝承は残っていないらしくてね。子に代々言い伝えるほどのものでもなかったのか、それとも既に滅びた氏族が立てたものなのか……」
イザムギはそこで黙り込んで暫く沈思していたが、結論が出なかったのか数度首を振った後、改めてぷるみえーるを見る。
「まぁ、操作方法は判ったのだから色々と触ってみれば何か変化があるだろう。君に操作について教えておくから、碑石を見つけたら色々と弄ってみてくれ。噂やら目撃例、それに碑石の文等を総合しての俺の推測では、碑石は恐らく五つある筈だ。全てを確認し終えたら、またここに報告に来て欲しい」
End of Scene...
2009年04月20日
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